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万葉集巻第一より
山越の 風を時じみ 寝る夜おちず 家なる妹を かけて 偲ひつ
【六番歌】
〇風を時じみ……「時じ」はここでは「絶え間ない」という意味。ミ語法も加味すると全体で「風が絶え間なく吹いているので」。
〇寝る夜落ちず……ここでの「落ち」は「欠けることなく」という意味。毎晩寝床で、ということ。祝詞の慣用表現「もるることなく、おつることなく」の「おつ」と同様の意味。
〇かけて……意味は現代語と同じだが、この語が歌の中で使用されると、何に「かけて」いるのかが書かれていないことが多い。ここでは「心にかけて」。「掛けまくも畏き」という祝詞の慣用表現との関連から、注意したい。
万葉集巻第一より
【五番歌】
霞立つ 長き春日の 暮れにける たづきも知らず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うらなけ居れば 玉だすき かけのよろしく 遠つ神 わが大君の 行幸の 山越す風の ひとり居る わが衣手に 朝夕に かへらひぬれば ますらをと 思へる我も 草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに 綱の浦の 海人娘子らが 焼く塩の 思ひそ焼くる わが下心
〇たづきも知らず……後述。
〇心を痛み……「AをBみ」のかたちで「AがBなので」の意味(いわゆるミ語法)。Bに入るのはク活用の形容詞。上代に特有の語法。
〇玉だすき かけのよろしく……「玉だすき」は掛詞。「かけのよろしく」は、ことばだけでも嬉しい。
〇かへらひぬれば……「かへる」「ふ」「ぬ」「ば」が結合。「ふ」は反復または継続の意味をもつ助動詞。上代以降あまりつかわれない。
〇たづきを知らに……後述。「に」は打消の助動詞「ず」の連用形。上代以降、つかわれなくなってゆく。
【補足】
「たづきも知らず」が歌中で二度つかわれているが、「たづき」の意味が少々異なっている。
ひとつめは「霞立つ 長き春日(はるひ)の 暮れにける たづきも知らず」で、霞の立つ春の日が長くて、いつ暮れたのかわからない、という意味。ふたつめは「草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに」で、旅行中なので、じぶんの思いをどうすべきかがわからない、という意味。前者が状態をさすのに対し、後者は手段・方法をさす。