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祝詞作文ノート

人形感謝祭祝詞8 おねがいする

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人形感謝祭祝詞8 おねがいする

人形感謝祭祝詞8 おねがいする

 

 きのうに引き続き、お願い申し上げる部分をつくっていくことにします。

 

 奉書紙は七折半、そのうち最初と最後には書かないのでスペースが六つある。六つのうち二つを利用してお願い申し上げる部分をつくると、先に申しました。

 

 この部分の最大のポイントは、願いごとをたくさん並べないことです。現代では祈願を主眼とした祭祀が圧倒的に多いので、どうしても多くしてしまいがちなので注意が必要です。

 

なお、祈願以外に、祝詞には特に重要なことをご報告申し上げる「奉告」、願いを聞き届けてくださったことに感謝する「報賽」などがありますが、祝詞の最後の方でお願い申し上げる部分を置くことが多く、純粋な「奉告」「報賽」の祝詞はあまり見かけません。

 

 さて、いま想定している、お願い申し上げる部分の分量は全体の三分の一ほど、この分量でどんなことを申していきましょうか。もちろん、大事なことから順番に奏上する方がよいでしょう。

 

 人形感謝祭ですから、人形の魂が荒ぶることなく、よい場所へお導きくださいというのが最重要です。そのように祈る人たちの気持ちをよしとしていただく、というのがそれに次ぐでしょう。

 

 では実際につくっていくことにします。まず、人形の魂が荒ぶることなく、から。人形の魂はほぼそのままで「人形の御魂」、「人形の御魂の」「人形の御魂は」と、あとを受けるのは「の」や「は」でもよいのですが、これに、上へくる語をとりたてて強調し、深い感慨を示す連語の「はも」をつけ「人形の御魂はも」としてみます。

 

なお、ミタマを「御魂」としたのは、祭祀の対象たるみたまさんを「御霊」とすでに表記しているので、区別をつけるためです。発音はどちらもミタマですし、漢字をつかい分けることについて「漢意(からごころ)」にとらわれていると本居宣長に叱られそうです。してみると、この区別は必要ないかもしれません。

 

つづけます。荒ぶることなく、は、そのままだと単調なので、調子を整えるべく「猛ぶることなく、荒ぶることなく」としましょう。他には「荒ぶる」と同じ漢字をつかうことが多いのですけれども、「すさぶ」という語がありますので、どちらかを「すさぶることなく」としてもよいでしょう。なお、「猛ぶることなく、荒ぶることなく、すさぶることなく」などと、三つ並べるのはあまり見ません。ふたつずつのまとまりをつくり、計四つ並べるのでしたら、場合によってはありかとも思います。

 

 さて、こうした魂はどこにいくのでしょうか。魂となってどこかへいった、という話はたまに聞きますけれども、私じしんは経験ありませんし、魂はどのようなところへいくのかはわかりません。ですから、この世ではない他界、また、この世であったとしてもよい場所へと人形の魂を導いていただきたいわけなので、その「他界」「よい場所」を、上代の古典を踏まえて申すしかありません。

 

 単純に「よい場所」を意味する古語には、「まほらば」「まほら」「まほらま」などがあります。「まほ」が完全であること、よく整っていることを意味し、「ら」をつけると、そのような「場所」ということになります。ここでは音がやわらかい印象を受ける「まほらま」を採用することとして、「天のまほらま、国のまほらま」としてみます。「天の~、国の~」は祝詞の慣用句です。魂の行方としてのよい場所いっても天上なのか地上なのかは想像するしかないので、この慣用句をつかってみます。

 

 さらにもう少し、よい場所を意味する語句をあげていきましょう。冒頭部ですでに使用した「朝日の直刺す処、夕日の日隠る処」もよい場所でしょう。これは古事記や式祝詞にあると申しました。同様に、ここでは日本書紀の記述を踏まえて「常世の浪の敷波寄する処」としてみます。

 

 海の向こうの常世の波が、しきりに打ち寄せるところ。そのような場所なので、じぶんはここにいたいと仰った神様がいらっしゃいます。なんという神様かはここにあげなくてもよいですよね。なお、もとは「常世の浪の重浪(しきなみ)帰(よ)する国なり」で、奏上のときに読み誤らないよう漢字を一部、変えています。

 

 もうひとつ、よい場所を式祝詞の遷却祟神からあげてみます。「此の地(ところ)よりは、四方を見霽(みはる)かす山川の清き地に遷り出で坐して」。この場所から、周辺を見渡すことのできる山や川の清らかなところに、お移りなさいましてという意味。この人形感謝祭祝詞では、みたまさんによい場所へ導いてくださいとお願い申しますので、後半部分を「導き遷し坐して」に変えます。また「地」を読み誤らないよう「処」にします。読み誤る恐れがないなら、もちろん「地」のままでも構いませんし、「所」の方がまちがいなくトコロと読めるというなら、それでもよいでしょう。同様に、「見霽かす」は「見遥かす」とする方がよいかもしれません。

 

 まだまだ「よい場所」をいう表現はありますけれども、これくらいにして、いまあげたみっつの語句をまとめてみます。

 

天のまほらま、国のまほらま

常世の浪の敷波寄する処

此の処よりは、四方を見霽かす山川の清き処に導き遷し坐して

 

 このうち、遷却祟神の表現がすでにととのっていますので、他の語句を挿入するようにしてみます。

 

此の処よりは、天のまほらま、国のまほらま、常世の浪の敷波寄する処、四方を見霽(はる)かす山川の清き処に導き遷し坐して

 

 また、「天のまほらま、国のまほらま」は抽象的なので、つまり天や地のどこかよい場所へお移しください、ということなので、そのままでよいとして、後半部分はこのままではどこに導けばよいのかはっきりせず、みたまさんが困ってしまいます。そこで後半部を、このように改変してみます。

 

常世の浪の敷波寄する処とも、また四方を見霽(はる)かす山川の清き処とも、導き遷し坐して

 

「~処とも、また~処とも」という部分が、つけくわえたところです。これでひとまず完成として、よい場所へ導き移していただいたあと、「よい魂にしてください」という意味の語句をつけくわえます。もっとも念押しのようなので(つまり失礼かもしれません)、議論のあるところかもしれません。推敲段階で全文をとおして読んでみて、どうもこれは念を押すようで失礼だと感じられるなら消すこととして、いちおうつくっておきます。

 

 このくだりの直前に「人形の御魂はも、猛ぶることなく、荒ぶることなく」と申しますので、「荒魂」からその逆の状態の魂、つまり「和魂」に、というのが自然でしょう。「一霊四魂」といってここで「荒魂」「和魂」とすでにふたつ出ていますが、残りふたつは何だったでしょうか。

 

それは、「幸魂」と「奇魂」です。「和魂・幸魂・奇魂と為し給ひて」と、みっつを単純に並べると、さっき「よい場所」を並べたときと同じになってしまいますので、「とも」「また」をつかいまして、

 

和魂、また幸魂・奇魂とも為し給ひて

 

 とします。他に「和魂とも、幸魂、また奇魂とも……」などとすることもできます。このあたりは人によって異なるでしょうが、要は奏上しやすいよう、音の調子がととのう位置に「とも」「また」を挿入するという考え方でよいと思います。

 

 以上をもって、お願い申し上げることのひとつが、できあがりました。つづいて第二点目、この項の最初に述べたように、そのように祈る人たちの気持ちをよしとしていただき、お守りくださいとお願いする語句をつくっていきます。

 

 みたまさんの前にて参列する人たち、ということで、まず「御前に参列(まゐつらな)む者等(ら)」。参列者の気持ちについては「真心」としましょうか。そしてその真心をよしとしていただき、ということで「諾(うづな)ひ給ひ」。意味の通るように各語句をつなげてみますと、以下のようになります。

 

御前に参列む物等の真心を諾ひ給ひ

 

 つづけて、参列者をお守りくださいと申し上げます。どのようにお守りくださいと申すのか、その「どのように」の部分で二種類の系統があります。「夜の守・日の守に」という表現。夜も昼もということで、要はいつもお守りくださいというわけです。もうひとつは、「堅磐(かきは)に常磐(ときは)に」で、こちらは永久に、ということです。

 

 この二種類の系統の選択は、その人の考えによると思います。ここでは「堅磐に常磐に」は意味上、ちょっと重いようですので、「夜の守・日の守に」をつかうことにします。つなげてみますと、

 

御前に参列む物等の真心を諾ひ給ひ、夜の守・日の守に守り給ひ

 

 これで、第二点目のお願い申し上げる内容も完成しました。結尾部へとつなげるため、最後の「守り給ひ」を「守り給へと」に変え、第一点目とあわせて以下に掲げます。

 

人形の御魂はも、猛ぶることなく、荒(あら)ぶることなく、此の処よりは、天のまほらま、国のまほらま、常世の浪の敷波(しきなみ)寄する処とも、また山川を見遥かす清き明き処とも導き遷し坐して、和魂、また幸魂・奇魂とも為し給ひて、御前に参列(まゐつらな)む者等の真心を諾(うづな)ひ給ひ、夜の守・日の守に守り給へと

 

 これで十分当初の予定通りの内容になりましたが、ちょっとだけ分量が足りないようです。といって、お願い申すことの三点目をつくるほどではありませんので、いまある語句につけくわえることにします。

 

 お願い申し上げる部分の出だしでよくつかわれる表現に、今からのち(あるいは、それとほぼ同じ意味の)、という意味の語句があります。例えば「今ゆ往先(ゆくさき)」「今ゆの後は」「今も往先も」などです。ここでは「今ゆ往先」を採用、このお願い申し上げる部分の初めに置くことにします。ただ、これだけではまだ足りません。

 

そこで、お願い申し上げる対象であるみたまさんが、やはり生前、人形をかわいがられていただろう、そのおこころのままに、という語句をくわえることにします。こう書くとすぐに思いついたようですが、けっこう時間がかかったところです。どちらかというと、枕詞をつかったり、祝詞の慣用句をくわえたりするのは、すぐに思いつきますが、こうした具体的な内容を考えだして古語にするのは、ゆるくありません。

 

ともあれ、古語にしていきますと、みたまさんが、は「汝命等(いましみことたち)の」。「汝」には、ミマシ、ナンジなどの読みが他にあり、「汝命」でナガミコトと読むこともあります。「等」は上にあたる方なのですから、タチで動きません。ついで、かわいがりなさったおこころ、は「愛(め)で給ひし御心(みこころ)」。ままに、は「任(まにま)に」。「任」の字は「随」をつかうこともあります。つなげてみますと、

 

汝命の愛で給ひし御心の任に

 

 この語句は、「今ゆ往先」のさらに前に置くといいでしょう。これでひとまず完成ということで、お願い申し上げる部分を全部、以下に掲げます。

 

汝命等(いましみことたち)の愛(め)で給ひし御心の任(まにま)に、今ゆ往先(ゆくさき)、人形の御魂はも、猛ぶることなく、荒(あら)ぶることなく、此の処よりは、天のまほらま、国のまほらま、常世の浪の敷波(しきなみ)寄する処とも、また山川を見遥かす清き明き処とも導き遷し坐して、和魂、また幸魂・奇魂とも為し給ひて、御前に参列(まゐつらな)む者等の真心を諾(うづな)ひ給ひ、夜の守・日の守に守り給へと

 

 あすはようやく最後、結尾部をつくります。

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